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自動車運転事故と視野障害(長文)

2017年05月26日



高齢運転者による死亡事故の増加を受けて道路交通法が改正され本年3月から施行された。今後は3年毎の免許更新時に加え、信号無視や一時不停止など特定の違反をした場合には臨時の認知機能検査が行われ、検査で認知症のおそれありと判定されたすべての運転者に医師の診断を受けることが義務づけられる。そして認知症と診断された場合には運転免許は取消しとなる。認知症疑いの受診者は年間5万人以上と見込まれており、これに医療現場が対応できるのか懸念されているが、今後の施行状況を注意深く見守る必要があるだろう。一方、自動車運転事故の原因は認知症だけではなく、視力や視野などの視覚障害や聴覚障害、運動機能の衰えなどの原因もありうる。




 わが国の運転免許適性検査では一種免許の場合、両眼で0.7以上、片眼で0.3以上、片眼が0.3未満の場合には他眼の視力が0.7以上かつ視野が左右150度以上という基準が設けられている。これは米国やEUに比べて厳しいものではあるが、実際の患者さんを診ていると「この状態で運転を許可していいのか?」と思うことがしばしばある。




 2011年、奈良市で40歳代の男性が軽トラックを運転中に道路を横断していた歩行者を死亡させた事件では、事故後に加害者が網膜色素変性症であることが判明した。網膜色素変性症の主症状は夜盲と視野狭窄であり、典型例では視野が中心10度以下に狭窄していても視力は良好であることが多い。加害者は視力が良好であったため視野検査を受けることなく免許が更新され、眼科を受診することもなかった。裁判では病気であることを知らなかった加害者に事故の責任は問えないとして無罪判決が出されたが、この事件をきっかけに視野障害と運転事故との関係が注目されるようになった。




 網膜色素変性よりはるかに患者数が多く、視野障害をきたす代表的な眼疾患といえば緑内障だ。厚労省調査によれば医療機関で把握されている患者数は100万人を超える。緑内障による視野障害は網膜色素変性と同様に周辺部から始まり、軽症例では何ら自覚症状がない。重症化するまで中心視野は保たれることが多いため、かなりの視野狭窄がありながらも視力検査を通過し免許更新ができたという患者にたびたび出会う。




 緑内障患者における交通事故件数と視野障害の重症度とを調査した研究によれば、視野障害の進行した後期緑内障では、年齢や運転距離などを補正してもなお健常者の2.28倍と有意に事故が多いと報告されている。重度の視野障害は「運転に支障を及ぼすおそれのある病気」に含まれるべきなのだ。




そこで警察庁は専門家を加えた委員会を立ち上げ、免許更新時の視野検査を強化するべきか検討するために、ドライビングシミュレーターを用いた精力的な研究が行われた。しかし、どの程度の視野障害があれば運転免許を停止するといった線を引けるだけのデータは得られていない。また、警察署や免許センターで行われる視野検査では十分な精度を期待できないのが現状だ。




しかし、無自覚の視野障害例を検出し自動車を運転する際のリスクを理解させ、場合によっては免許返戻へと誘導することは患者のためにも社会のためにも有益と考える。そこで提唱したいのは公的な眼底検診プログラムの創設だ。緑内障や網膜色素変性などの早期発見には眼底検査が最も有用であるが、現在の特定健診には含まれていない。眼底検診でこれらの患者を拾い上げ、視野障害の重症度に応じて適切な指導を行えば、交通事故の防止にも大いに役立つはずだ。また、視野障害を自覚している患者は運転が慎重になり、事故を起こす確率がむしろ低いとも言われている。障害の自覚のない認知症よりは救いがありそうだ。




(平成29年4月 はちのへ医師会のうごき 574号 巻頭言)


 
 
 
 
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